森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第285回 国政におけるICT論議

 

 国会議員が何をしているのか、国民から見えにくい部分がある。国会議員の役割とは何か。法律を決定すること、行政を監視すること、同僚議員を説得すること、国民と対話することなどが挙げられよう。

 国民との対話が出発点だが、選挙区のある議員は域内の有権者と、組織内議員は出身母体の構成員(労組では組合員)と会う機会があるので、そこで国民の意見を聞いて国会に届ける。

 議員の任務は、国会で法案を審議して、賛成か反対の票を投じることである。賛成多数であれば法律になって国民の行動を縛るから、審議は慎重で、投じる票にも重みがある。

 しかし国会で行われていることはこれだけではない。審議は質問側と答弁側で非対称的な関係にある。通常は与野党の議員が質問して、政府が答える。それは政府が法案を提出しているからであるが、国会審議はこれだけではない。既存の法律の不備を指摘し、行政の規制について問いただすことも重要である。省庁が法律上、越権行為をしていないか、法律内だとしても、社会通念上、行き過ぎではないかについても質疑の対象になる。

 国会議員の仕事は国民の意見を聞いて法律に反映させ、行政を監視することだが、法律の決定には過半数が必要になる。通常は党派に分かれて、そこで賛否が線引きされるが、すべての法案で与野党が対立しているわけではない。

 というより与野党対立法案のほうが少なくて、意外に全会一致や全会一致マイナス共産党が多い。というのも政治が扱うのは社会的課題だが、だれが見てもそうすべきだということは多いし、解決策も与野党で隔たりがない。

 課題に共通了解があり、解決策では法案提出前の与野党協議で歩み寄れれば、本会議での採決はよい意味での儀式となる。議事堂で乱闘になる法案は悲劇で、採決前の話し合いで与野党が合意しているほうが幸福である。

 与野党を超えた連携は裏取引ではなく、国会議員の仕事であり、同僚議員どうしの意見交換は必然である。好例が共通の課題に取り組む与野党の議員連盟である。

 整理すれば、国会議員の仕事は①法律の決定、➁行政の監視、➂同僚議員の説得、④国民との対話などだが、組織内議員の活躍として➁と➂を採り上げたい。

 ICTは総務省の管轄だからNTTの経営形態問題は総務委員会で扱われ、政府答弁は総務大臣か総務省の役人となる。社会通念、経済合理性、組合員の意見を代弁するのが組織内議員の役割である。

 大臣答弁は国の公式発言となり、文書としても残され、政府の方針となるから、的確な質問をして重要な答弁を引き出すことが議員の力量となる。少し古いが3年前の審議を振り返りたい。

 吉川議員は従来の総務省の方針、現在の情報通信業界の動向、対処法、そのための情報通信行政について整理する(参議院総務委員会2018年5月15日)。

 「先月の衆議院総務委員会、4月12日、大臣は、これまでの電気通信行政全般についての答弁で、規制緩和を進め、公正な競争環境を整備することによって事業者間の活発な競争を促してきた結果、約1.9万事業者が参入し、市場規模は約5倍に拡大するなど、大きな成果を上げてきたという旨の答弁をなさっています。確かに、1985年以降、新規事業者の参入を促すことで国内の情報通信市場における競争を活性化し、結果として料金の低廉化やブロードバンドの普及拡大が進展したという点では一定の成果があったことは間違いないと思います」。

 「ただ、しかしながら、世界に目を向けた場合、GAFA、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンがICT市場を席巻し、現在もなおその国際的影響力を増し続け、支配的な状況となっています。日本では、光ファイバー等通信インフラや通信の料金の低廉化は世界水準と比較してもトップレベルとなっていますが、アプリケーションレイヤーやプラットフォームレイヤーといった、いわゆる物理層ではなくて上位レイヤーにおいては、我が国の情報通信企業はGAFAのような世界レベルの企業と互角に渡り合えるレベルとなっているとは言い難いと思います」。

 「これまでの政策は、新規事業者の参入を促すことで通信市場の活性化を図るといったネットワークレイヤー、さっき申し上げたのが上位レイヤーとすれば、ネットワークレイヤーに閉じた競争政策に終始してきた感が否めませんが、こうした政策が事業領域の垣根をブレークスルーして上位レイヤーに打って出るといった通信事業者の挑戦意欲を阻害し続けてきた結果、今日のような我が国企業がグローバルICT市場においては後塵を拝する状況に至る状況をつくってしまっているのではないかとも言えます」。

 「ICTによって世の中の産業構造全体が変化していく中で、いつまでも旧来型の制度をベースとするのではなく、これまでのネットワークレイヤーに閉じた競争政策は一旦棚卸しした上で、今後は、ネットワークレイヤーに縛られない新たな領域への通信事業者の積極的な挑戦を促し、グローバルICT市場の上位レイヤーにおいても世界と互角に戦えるようなプレーヤーを育てるといった観点での政策を大胆に打ち出していくという方向にシフトしていくべきと考えますが、大臣の御所見を伺います」。

 当時の野田聖子総務大臣は答える。「吉川委員御指摘のとおりで、総務省では、昭和60年の電電公社の民営化、通信自由化以降、規制緩和を進めるとともに、公正な競争環境を整備することによって事業者間の活発な競争を促してきたところです。加えて、消費者保護ルールを充実して、利用者利便の向上を図ってきました。結果、多くの企業が新規参入することができ、料金の低廉化とかLTEや光ファイバーなどブロードバンドサービスの普及、そういうことが進み、お話があったように市場規模は約5倍に拡大するなど、これまで大きな成果を上げてきたということを認識しています」。

 「さらに、電気通信事業者と様々な業種の企業との連携を可能にして、上位レイヤー、今お話があった上位レイヤーなどにおける新サービス、新事業の創出を促進するため、移動通信分野の市場支配的事業者に対する異業種との連携に係る規制の緩和、NTT東西の光回線の卸売サービスに関する制度整備などの規制改革にも取り組んでいるところです」。

 「総務省としては、ICTを取り巻く環境の変化を踏まえ、上位レイヤーや国際展開も視野に入れた施策に取り組んでいくことで、我が国経済の活性化や、国民がICTのメリットを最大限享受できる環境の実現にしっかり努めてまいりたいと思います」。

 政治的に言うと、一本取った!である。総務省は情報通信業界全体を監督するからNTTだけを標的にせず、競合他社にも配慮しなければならない。はっきりと「NTTの国際展開のために規制を緩和します」と言ってしまうと、ライバル会社は「総務省はNTTの肩を持っている」と思うだろう。

 とはいえGAFAに関する指摘はその通りで、ドコモ子会社化の真の目的が海外のBig Techによる通信市場への参入だから、情報通信の世界展開を考慮すればNTTへの規制は強められない。総務大臣としてはギリギリの発言である。ここまでの答弁を引き出すにはICTにかなり精通している必要がある。

 組織内議員が国政で活躍している別の経路が同僚議員の説得で、その場が議員連盟である。国会議員は不思議な存在で、社会のあらゆる課題を解決するために罰則付きの法律を決定するのだが、それをたった700人超でやっている。

 情報通信だけでなく、医療や建築や食品や防災など、それぞれ専門性の高い分野なのに、いつも同じ人が審議して賛否を投じる。ほとんどの議員がほとんどの分野で素人だから、それでも審議して投票するので多方面で勉強を続けなければならない。

 実際は個別分野のエキスパート議員がいる。NTT労組には、エネルギー、再犯防止、震災復興、ふるさと創生などに取り組んでいる組織内議員もいる。ほかの分野も勉強されているが、それぞれの議員には売りというか強調点はある。

 700人超が個々の専門分野について同僚議員と意見交換するが、そのひとつが議員連盟である。石橋議員は超党派の「ICT教育促進議連」を中核の事務局長として率いている。石橋議員のオフィシャルサイトを見ると、永田町の面白い事実がわかる。

「10月14日(金)の午前、国会内で、私が事務局長を務めている『教育におけるICT利活用の促進をめざす議員連盟(ICT教育議連)』が第2回総会を開催し、多数の議員及び関係者の皆さんが参加してくれました。参議院選挙後初めての総会ということで、衆参全国会議員に新規入会を募ったところ、新たに11名の入会があり、総勢で68名となりました。議員の中でも徐々に関心が高まっていますね。嬉しい傾向です」。

 この手の議連はたくさんあるが、広く周知してメンバーを募集する。そこに興味のある議員が加わるが、議員が個人資格で与野党を超えて勉強会に参加していることは、案外、一般には知られていないようだ。政治家を悪く言うのが評論と思われているが、国会議員が勉強家であることは紛れもない事実である。

 続けて「この日の総会では、文部科学省が夏に公表した『教育情報化加速化プラン』についてまずヒアリングし、併せて来年度予算概算要求におけるICT教育関連事業の内容について、文科省及び総務省の担当部局からヒアリングを行いました。さらに、議連の当面の活動について出席議員と意見交換を行い、教育現場におけるICTの効果的な利活用の促進、特にデジタル教科書の普及促進やそれに必要な環境・体制の整備確保を図るため、国や地方自治体の役割・責務などを定めた『ICT教育推進法案(仮称)』を検討するための作業チームを設置することを確認しました」とある。以後も有識者の話を聞いて質疑応答するという建設的な会合が開催されている。

 これら2つの事例の紹介だけでも、議員が有意義な仕事をしていることをご理解いただけるのではないだろうか。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は3月1日の予定です)

【森田浩之プロフィール】

東日本国際大学客員教授。長年、哲学と政治を学んできたが、現在は人工知能の基本理念と社会的意味について研究している。NTT労働組合の機関誌『あけぼの』に「未来を語ろう――ICT/AI研究ノート」を連載中。著書に 『情報社会のコスモロジー』 『社会の形而上学』 『小さな大国イギリス』『ロールズ正義論入門』がある。NTT労働組合の学習会では、情報通信政策について解説している。