森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第264回 技術とサービスのシナジー

NTTの強みはグループ内に情報通信業務が集約されているため、シナジーが生まれることで、個々の業務を単独で行うだけでは得られないノウハウが蓄積されることである。ICTは固定・移動の通信、銀行や自治体のシステム・インテグレーション、データ収集のためのIoT、新しいビジネスモデルとしてのB2B2Xなど多岐にわたる。

 NTTの強みは、個々の分野で一流企業がグループを形成していることで情報の入口から出口までを網羅しているため、技術的な課題から消費者の嗜好まで、すべてを熟知していることである。GAFAなどのICT企業も同様に、高い技術と顧客ニーズへの敏感さを兼ね備えているから、日本におけるNTTの存在は貴重である。

 Amazonは技術面ではAmazon Web Servicesによってシステム業界に進出している。一方Eコマースの王者であるため、購買データは世界一である。ただしシステム・インテグレーションと消費者把握の両立がAmazonをどこまで成長させるかは不明である。

 その点Googleは検索結果から得られる利用者の傾向、GPSから得られる人びとの移動履歴などで、個人を特定できるくらい「その人」の人となりを再現することができる。

 Facebookも同様に、利用者がInstagramと連動させていればFacebookに入れたコメントや「いいね」と写真を関連づけることで、Facebookのほうが本人よりも「その人」をよく知っていることになる。

 GoogleとFacebookが集めた「その人」情報はAIの肥やしとなり、システムを洗練させる。GoogleはAIの成果を検索結果の精緻化につなげて、Facebookは高度化したAIをフェイクニュース退治に用いれば、それぞれの評判は上がる。すると利用者が増えて、得られるデータ量が多くなり、AIがレベルアップする。

 このような正の連鎖をつくりだすためには、ひとつの会社のなかに高度な技術と顧客ニーズ探索能力の両方が含まれていなければならない。

 その点、同じレベルで対抗できるのは、日本ではNTTだけである。というのも、すでにこのコーナーで扱っているように、NTT研究所の成果は日本一であるだけでなく、シリコンバレーに拠点を置くNTT Research Inc.はいままでの日本企業では考えられなかった規模で世界有数の研究者をヘッドハンティングしている。

 一方でカスタマーニーズに関しては、各グループ会社が顧客との関係を長期的に築いている。東西ドコモでは回線を利用する法人・個人と触れ合うことで、ニーズをじかに感じられる。データは金融や自治体などで日本一だから、信頼関係が醸成されている。

 コミュニケーションズはいままさに「Smart World」をコンセプトに、NTTグループ内ではB2B2Xを最も積極的に推し進めている。NTT Comは工作機械業界、化学業界(化学石油コンビナート)、製造業(食品、鉄鋼、電機、自動車)と一体となって、それぞれの業務を効率化するだけでなく、個々の企業(2番目のB)がいままで気づかなかった新しい価値を創造している。

 さらに驚くのはNTTグループにコンタクトセンター業務が含まれていることである。むかしから「104」(電話番号案内)や「116」(申し込み受付)はあるから当然だが、近年、多くの企業がコスト削減のためにアウトソースしているなか、NTTグループ内にこの分野を持っていることは、カスタマーニーズを理解する上で大きな資産である。

 情報通信業界では、顧客からの問い合わせ内容に技術的なことが含まれるから、オペレーターさんたちの負担は大きい。さらに最近の「お客様第一主義」を勘違いした客は荒っぽい話し方をするため、受け手の精神的消耗は危機的な状態でもある。

 これについてNTTマーケティングアクトの横山社長は次のように述べる。「昨今、さまざまな業界で人手不足といわれており、それに対応するためのアウトソースといった傾向が出てきており、コンタクトセンタ業務もその流れを受けて,増収基調にあります。一方で、この業界(コンタクトセンタ業界)自身も人材とスキルの確保が大きな課題となっています」(『NTT技術ジャーナル』2020.2、P41)。

 とくに問題なのが離職と感情の受け止めである。「離職対策も重要です。人材不足の中、せっかく採用した人材が離職すると教育等により向上させたスキルがレベルダウンしてしまいます。」続けて「お客さまから怒られるのが仕事的な部分も一部にはあるので、意外とコンタクトセンタのコミュニケータは大変です」(同)。

 そこでいま注目されているのがオペレーターさんを助けるAIである。NTTメディアインテリジェンス研究所は「オペレータの応対を支援する自動知識支援システム」を開発した。問題意識は以下のとおりである(『NTT技術ジャーナル』2019.7より)。

 「コンタクトセンタは企業の顧客接点として重要な役割を担っています。短時間で適切に応対することによって顧客満足度を向上させることが大きな目標の1つとなっています。しかしながら,取り扱う商品やサービスの種類や複雑さは年々増大し、それに伴うオペレータに求められる知識量の増加はオペレータにとって大きな負担となり、オペレータの定着率も低下しています。このような状況の中で、特に業務経験の浅いオペレータを支援するために、応対中のオペレータに適切な情報(知識)を自動的に提示する自動知識支援システムを開発しています」(P16)。

 そして「自動知識支援システムは、コンタクトセンタ(コールセンタ)に電話をかけてきたお客さまの用件に基づいて適切な情報を応対中のオペレータに提示することで、業務経験の浅いオペレータを支援するシステムです」(同)。

 具体的には、オペレーターが見ているコンピュータの左側にいままでの会話が文字化され、右側に「お客さまの用件を伝える発話あるいはオペレータの用件を確認する発話から自動で検索されたFAQからスコアの高い類似質問とその回答」(同)が示される。システムは3つのステップからなる(P16~17)。

①音声対話のテキスト化...「『話し終わり判定』により、オペレータとお客さまの音声対話を認識してオペレータが見やすいかたちでテキストにします」

➁音声対話の構造化...「『応対シーン推定』により、コンタクトセンタの音声対話にみられる特徴から音声対話を構造化します」

➂FAQ検索の自動化...「『FAQ検索発話判定』により、お客さまの用件を含む発話あるいはオペレータが用件を確認する発話を抽出し、それをFAQ検索のクエリとして利用することであらかじめ作成されたFAQを自動検索します」

 「音声対話のテキスト化」では、AIの音声認識技術が不可欠だが、自動知識支援システムのすごいところは、会話を文字化するだけでなく、文章として見やすい形に変換してくれることである。会話は少々支離滅裂でも理解できるが、文字にすると意味不明になってしまうから、システムには「話し終わり判定」機能が備わっている。

 「音声対話の構造化」だが、コンタクトセンターが扱う事柄は商品の問い合わせなど特定の分野に限定されているため、会話にパターンがある。ここでAIがすべきことは「対話の流れを大局的につかむこと」(P18)である。

 「FAQ検索の自動化」のためには、顧客の「用件発話判定」と、オペレーターさんの発話が用件を確認しているのかを判定する「用件確認発話判定」が必要だが、NTT研究所はこれを機械学習によって実現させた。

 ここにもNTTの強みである「高い技術」と「ニーズへの敏感さ」のシナジーが表われている。改めてNTT分割論など、過度な政治介入が技術革新を阻むことに警鐘を鳴らしておきたい。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は4月15日です。)

【森田浩之プロフィール】

東日本国際大学客員教授。長年、哲学と政治を学んできたが、現在は人工知能の基本理念と社会的意味について研究している。NTT労働組合の機関誌『あけぼの』に「未来を語ろう――ICT/AI研究ノート」を連載中。著書に 『情報社会のコスモロジー』 『社会の形而上学』 『小さな大国イギリス』『ロールズ正義論入門』がある。NTT労働組合の学習会では、情報通信政策について解説している。