森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第231回 消費増税を考える

来年10月に消費税が10%になることが、ほぼ確実に決まったが、これにはさまざまな論点が絡んでいる。

ひとつは端的に、増税に「賛成」か「反対」か、という議論である。これは増税が「善い」か「悪い」か、という論点であり、経済全体への影響の問題である。増税しなければ財政が成り立たないことは認めるとしても、増税することでかえって景気が後退して、それで税収が減るならば、増税しなければよかったということになるから、やめておこうという主張である。

 これは増税自体の是非だが、財政のために増税は認めるものの、「消費税に反対」という立場もある。消費税はお金を使う人たち全員を対象とするから、低所得者に大きな打撃を与える。だから別の税金、たとえば所得税や法人税を引き上げて、消費税は据え置くか、または5%に戻すべきだという意見である。

 増税の是非に戻れば、これはふたつの視点から見なければならない。ひとつは予算の構造であり、もうひとつは累積赤字の影響である。そこで予算を見てみよう。ここでは数字を雑に扱っている。だいたいの枠組みを頭に入れておいたほうが、細かい正確な数字に接するよりも、予算を身近に感じられるからである。予算を身近に感じられないと、政治と生活との連関が実感できなくなる。だから以下の数字が不正確であることをご理解いただきたい。

 予算には2種類ある。「一般会計」と「特別会計」である。前者は税金から成り立ち、使い道は国会議員が決める予算であり、後者は保険料や特定財源を集めたもので、使い道が最初から固定している予算である。後者から説明すると、出発点はわれわれの給与明細書である。ここに「所得税」以外に「年金積立金」「健康保険料」「失業保険」などと書かれているが、「所得税」が一般会計に入るのに対して、年金・医療・失業の各保険は、最初からそれぞれの目的のために集められているので、そのためだけに使われることになっている。だから税金とは別に「特別会計」として区別されている。

 一般会計は税金から成り立つと述べたが、歳入は所得税、消費税、法人税や、その他の細かい税金(酒税、たばこ税など)である。これがだいたい1年間で60兆円になる。「入りは60」と覚えていただきたい。次に歳出であるが、これはだいたい100兆円である。ここからが荒っぽい数字の扱いになるが、これを一度頭に叩き込んだうえで、正確な数字に触れていただきたい。確認すると「出は100」となる。面倒な話になるが、王道を行って、一般会計予算を3種類に分ける。国の政策的経費をまかなう「一般歳出」が60兆円、地方自治体に配られる「地方交付税交付金」が20兆円弱、いままでの借金の返済費である「国債費」が20兆円強である。

 国の政策的経費である一般歳出の中身は、「社会保障費」が30兆円、「公共事業費」が6兆円、「教育費」が5兆円、「防衛費」が5兆円などとなっている。このうち社会保障費では、年金、医療、その他の福祉が10兆円ずつである。既述のように、本来なら年金は積立金から、医療は健康保険料から、つまり特別会計から支出されるべきだが、それだけでは足りないため、一般会計すなわち税金で補っている。一般・特別を合わせると、年間で年金は50兆円、医療は40兆円になる。ここまでで予算の構造がおおよそ把握できたとして、「入りが60」で「出が100」という数字を再確認していただきたい。この40兆円をどうするのか、というのが課題として残る。そこで出たのが増税である。

ここで次の論点が現われる。増税ではなく、歳出削減に特化すべきだという意見もあるだろう。上記の予算の構造を見て、40兆円も削れるのか、われわれはじっくり考える必要がある。私見では、歳出削減に取り組まないかぎり、収支を合わせることは無理だと考えているが、それでもいまの予算から40兆円も減らすことは不可能だと思う。すると増税は致し方なし、となるが、なぜ消費税なのかと言えば、それは意外なことに、3つの主な税のなかで、消費税だけが景気変動の影響を受けないからである。経済が停滞していても、消費税だけは下がらず、所得税と法人税のほうが大きな打撃を受ける。だから安定した財源として、消費税が標的とされた。

ここまでの議論を受け入れるかどうかは別にして、次の論点に移れば、累積債務の影響がある。日本の1年間のGDP(国内総生産)は500兆円だが、いままでの財政赤字をすべて足し合わせると1000兆円になる。普通の感覚では、これはどうにかしなければならない、となるところだが、緊迫感がないのは、累積債務が実体経済に悪影響を及ぼしていないからである。

通常、政府の赤字は、過剰な通貨供給として表われる。国が借金して、余分に民間経済にお金をばら撒くことだから、国民がたくさん貨幣を手にする。お金が余れば、購買を促進するから、モノに比べてカネが多くなってインフレになり、そうなると物価高を抑えるために金利が上がって、加熱した景気が沈静化される。

悩ましいのは、理論上は1000兆円もの累積債務があれば異常な金利高になって、自動車や住宅から設備投資まで、あらゆる経済活動がストップするはずである。そうならないのは様々な力が働いているからであり、すぐに財政赤字の削減に乗り出さなくていいという見方もある。日本の家計資産は2000兆円に届きそうな勢いで、預金だけでも1000兆円になる。これによって累積債務が国内で吸収できると市場が見ていることが、金利が上がらないひとつの要因と考えられている。ただ、これが永遠に続くわけではない。増税を好む人はいないが、どこかで受け入れざるを得ない時が来るであろう。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は11月15日です。)

【森田浩之プロフィール】

1966年生まれ、東日本国際大学客員教授。フリーの著述家として、政治・経済について執筆・講演する一方、情報通信政策研究会の座長を務めている。NTT労働組合の政治学習会では、全般的な政治・経済に加えて、「これからの労働運動」「若者と政治」「NTTをめぐる規制と情報通信政策の動向」「地方分権時代の政策立案」など、多彩な内容の講演を行なう。著書に『小さな大国イギリス』(東洋経済新報社)、『社会の形而上学』『情報社会のコスモロジー』(共に、日本評論社)など。