森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第226回 IoT時代の雇用環境

8月に平成30年度版『経済財政白書』が発行された。マスコミは「技術革新は働き方を変える」(NHK NEWS WEB、8月3日)と伝えているが、意味を探ってみよう。

現在、政府をあげてIoTを推進しているが、政府は数年前から「第4次産業革命」や「Society 5.0」という言い方をしている。平成29年度版『経済財政白書』で、それぞれの定義を確認しよう。

「第4次産業革命とは、18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、70年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続く、IoT、ビッグデータ、AI、ロボット等のコアとなる技術革新を原動力とした経済社会の大変革を指す。」

続けて、IoTについてはこうなっている。

「IoTとは、工場の機械の稼働状況から、交通、気象、個人の健康実態まで様々なデータ化された情報(ビッグデータ)をネットワークでつなげてまとめ、これを解析・利用することであり、これにより、工場等の保守管理、渋滞の緩和、健康管理などの面で新たな付加価値が生まれている。」

同じ平成29年度版『経済財政白書』は「Society 5.0」をこのように説明する。

「政府は2017年6月に決定した『経済財政運営と改革の基本方針2017』において、Society 5.0(超スマート社会)の実現を目指した取組を打ち出している。Society 5.0とは、『サイバー空間の積極的な利活用を中心とした取組を通して、新しい価値やサービスが次々と創出され、人々に豊かさをもたらす、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く人類史上5番目の社会』とされている。少子高齢化が進む我が国において、個人が活き活きと暮らせる豊かな社会を実現するためには、IoTの普及などにみられるシステム化やネットワーク化の取組を、ものづくり分野だけでなく、様々な分野に広げ、経済成長や健康長寿社会の形成等につなげることが重要である。」

平成30年度版はさらに深掘りし、その効果について探究している。重要な文章なので、長くなるが読んでみよう。

「近年の情報通信ネットワークの発達やIoT、AI、ビッグデータ、ロボットの発展等により、第4次産業革命とも呼ばれる大きなイノベーションが生まれている。具体的には、相互接続されたスマートな機械やシステムを通じて、これまでデータ化されていなかった情報、例えば、 人間や機械の位置や活動状況などの情報がデータ化され、ネットワークを通じて集積されてビッグデータとなり、それが解析・利用されることで、新たな付加価値が生まれている。これまでデータ化されてこなかった情報も含めてビッグデータが利用可能となったことで、AIによる機械学習の技術が一層発展するとともに、データ解析の結果をロボットにフィードバックすることで、機械による自動化の範囲が飛躍的に拡大しようとしている。第4次産業革命の新たな技術革新は、人間の能力を飛躍的に拡張する技術(頭脳としてのAI、筋肉としてのロボット、神経としてのIoT等)であり、豊富なリアルデータを活用して、従来の大量生産・大量消費型のモノ・サービスの提供ではない、個別化された製品やサービスの提供により、個々のニーズに応え、様々な社会課題を解決し、大きな付加価値を生み出していく。」

続けて、データが経済資源の中心になることが語られる。

「さらに、21世紀のデータ駆動型社会では、経済活動の最も重要な『糧』は、良質、最新で豊富な『リアルデータ』になってくる。データ領域を制することが事業の優劣を決すると言っても過言ではない状況が生まれつつあり、これまで世の中に分散し眠っていたデータを一気に収集・分析・活用する(ビッグデータ化)ことにより、生産・サービスの現場やマーケティングの劇的な精緻化・効率化が図られ、個別のニーズにきめ細かく、かつリアルタイムで対応できる商品やサービス提供が可能になる。例えば、個人の健康状態に応じた健康・医療・介護サービスや、時間や季節の変化に応じた消費者のニーズの変化を的確に捉えた商品、農産品の提供などが可能となる。ものづくり、医療、小売・物流など、現場にあるリアルデータの豊富さは、日本の最大の強みであり、サイバーセキュリティ対策に万全を期しながら、そのデータ利活用基盤を世界に先駆けて整備することにより、新デジタル革命時代のフロントランナーとなることを目指すべきと考える。」

「役人の文章」と敬遠されがちな白書であるが、引用文はどれも事態を的確に捉えており、現状を把握するための必須テキストである。

このような背景から、ICTが雇用環境をどう変えるのかが分析される。「技術革新が労働市場に与える影響」という見出しの項では、以下のように展望される。

「近年、情報化の更なる進展やAI・ロボット等の新技術の普及により、これまで機械化が困難であった業務についても機械・システムによる代替が可能となってきたことから、技術革新が雇用にどのような影響を与えるかに関心が高まっている。AI等の技術革新が労働市場に与える影響については様々なものが考えられるが、大きく分けると、①AI等の新技術の導入によって業務が機械に代替され雇用が減少する可能性や、定型的な業務を中心に機械による代替が進むことにより、中スキルの雇用が減少し、低スキルと高スキルの業務に二極化が進む可能性、②情報通信ネットワークの発達やクラウドの普及により、職場にいなくても仕事をこなすことが可能になり、フレックス勤務やテレワークなど柔軟な働き方が普及する可能性、③ネットを通じた労働市場の需給のマッチングの効率性が向上したため、企業が細分化した業務をネット上でマッチした労働者にアウトソーシングを行うことや、相乗りサービスのような役務提供と利用者の間のマッチングが容易に行われることになったこと等により、オンラインの仲介で働くフリーランスなどの雇用関係によらない働き方が普及する可能性が考えられる。」

このなかでは①が切実な問題であり、悲観論の代表として語られるが、白書は次のように解説している。まず前回の産業革命をおさらいする。

「技術革新により雇用が機械に代替される可能性については、産業革命以降の技術革新に伴って繰り返し議論がなされてきた問題であり、例えば、19世紀初頭には、機械化により失業することを恐れた労働者が機械打ち壊しを行った『ラッダイト運動』が起こったことは有名である。ただし、技術革新による失業は一時的な影響であり、産業革命により工場労働者等の新しい雇用が創出されたため、労働需要が高い産業に労働者が移動することで、こうした失業は解消されていったことが知られている。」

これが工業化を促した18世紀の産業革命の帰結で、雇用は20世紀末まで伸び続ける。これが今回の情報化でも起こるのかどうかが課題である。白書は続けて「アメリカにおいて半数弱の雇用者が代替リスクにさらされている」試算と「労働者が機械に代替される一方で、自動化に伴う生産性の向上により、新たな雇用が創出されるとの見方」の両方を紹介し、次のように結論づける。

「今後、AI等の価格が大きく低下する可能性があることや、世代交代が進むにつれて人々の意識が変化しサービスも機械による代替が進んでいく可能性も考えられる。また、そもそも日本の場合、少子高齢化が進み、労働力人口が中長期的に減少していく可能性がある中 で、機械による労働代替は、むしろ人手不足を補う可能性もある。」

「他方で、多くの研究が指摘していることは、AI等の新技術の導入により、定型的な業務が代替され、結果として、労働市場が低スキルと高スキルに二極化する可能性である。」

後半の話はとても大事で、スキルの格差が貧富の格差を生み出すと考えられる。この場合、格差を是正できるのは、政治である。政治だけが徴税権を行使でき、政治だけが民主的な手続きに従って、その財を配分できるからだ。格差の是正は、政治に与えられた大きな役割であり、使命である。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は9月1日です。)

【森田浩之プロフィール】

1966年生まれ、東日本国際大学客員教授。フリーの著述家として、政治・経済について執筆・講演する一方、情報通信政策研究会の座長を務めている。NTT労働組合の政治学習会では、全般的な政治・経済に加えて、「これからの労働運動」「若者と政治」「NTTをめぐる規制と情報通信政策の動向」「地方分権時代の政策立案」など、多彩な内容の講演を行なう。著書に『小さな大国イギリス』(東洋経済新報社)、『社会の形而上学』『情報社会のコスモロジー』(共に、日本評論社)など。