森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第288回 改めて通信と政治

 

 特定の業界の競争状態を見る簡単な方法は、どんな企業が参入しているかを見ることであろう。情報通信業界では、どんな企業が活躍しているのか。まずグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンが思いつく。

 この時点ですでに情報通信業界と政治との関係は密になる。検索(グーグル)、端末(アップル)、SNS(フェイスブック)、Eコマース(アマゾン)で独占や寡占になっているため、政治は巨大企業(ビックテック)への圧力を強めている。昨年7月にはアメリカ議会の公聴会でGAFAのCEOが議員に厳しく追及された。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/45850

 情報通信業界が独占化・寡占化しやすいのは、情報という資源が「勝者総取り」になりやすいためである。2019年9月にヤフーとLINEが経営統合を発表した際、孫正義氏はICT業界が「Winner-takes-all」の世界だと述べていた。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20191114.html

 独占は特定の市場で財を提供する企業がひとつしかないため、価格が統制されて、消費者が不利益をこうむる。寡占は特定の市場で財を提供する企業が2つか3つに集約されており、競合他社の価格が見えやすい分、暗黙の共謀によって、同様に価格が統制されて、消費者が不利益をこうむる。価格統制を監視し、必要な場合は是正措置を求めなければならないため、このような業界は政府の監視下にある。だからICTは政治とは切っても切り離せない。

 しかし情報通信業界は「情報」に特化しているわけではない。むしろ「通信」が基軸で、それを通じて様々な情報が行き来しているというのが正確な描写である。そして通信こそ独占化・寡占化しやすいため、政府の監視下にある。NTT法の存在や、最近の携帯各社に対する総務省からの要請(圧力)に端的に表れている。

 とはいえ、通信は独占化・寡占化しやすいという理由だけで政府の監視下にあるわけではない。社会における通信の役割を考慮すれば、通信が政治課題である最大の理由は「公益性」「社会的有益性」である。だから通信は「IT業界」とも言えるが、同時に「公益事業」と言うこともできる。この点では情報通信業界は電気やガス、鉄道などに近いと考えるべきである。

 おさらいとして、どの業界にも参入条件があり、食品衛生法や建築基準法が典型であるが、それらを見ていこう。

食品衛生法は一般消費者を守ることを目的としているが、同時に飲食店が新規参入する際の条件も定めている。各店舗が法律を守っていれば、客の安全は守られるということである。

 通常、どの法律も最初のほうに目的や範囲が書かれているから、これを読むことで法律の役割を確認しよう。食品衛生法の第1条は次のようにある。

 「この法律は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ることを目的とする。」

 続けて第2条に行政の任務が示される。「国、都道府県、地域保健法...、...政令で定める市...は、教育活動及び広報活動を通じた食品衛生に関する正しい知識の普及、食品衛生に関する情報の収集、整理、分析及び提供、食品衛生に関する研究の推進、食品衛生に関する検査の能力の向上並びに食品衛生の向上にかかわる人材の養成及び資質の向上を図るために必要な措置を講じなければならない。」

 そして第3条に事業者の義務が明記されている。「食品等事業者...は、その採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、販売し、不特定若しくは多数の者に授与し、又は営業上使用する食品、添加物、器具又は容器包装...について、自らの責任においてそれらの安全性を確保するため、販売食品等の安全性の確保に係る知識及び技術の習得、販売食品等の原材料の安全性の確保、販売食品等の自主検査の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」

 建築基準法も見よう。第1条に「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と基本理念が書かれており、これによって建築主に安全義務が課せられる。

 情報通信業界の基準法に相当するのが「電気通信事業法」である。ちなみにメタル回線時は信号が電気だったため「電気」通信という名だが、いまでは光なので時代にあわせた名称にしてもいいだろう。

 第1条は「この法律は、電気通信事業の公共性にかんがみ、その運営を適正かつ合理的なものとするとともに、その公正な競争を促進することにより、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し、もつて電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進することを目的とする」と理念を定める。

 これによって「利用者の利益を保護し」「公共の福祉を増進すること」が通信事業者の義務となる。そして第2条の5に通信事業者の定義が書かれ、詳しくは9条と16条で規定される。

 9条は「電気通信事業を営もうとする者は、総務大臣の登録を受けなければならない」とあり、16条は「電気通信事業を営もうとする者...は、総務省令で定めるところにより、次の事項を記載した書類を添えて、その旨を総務大臣に届け出なければならない」となっている。もうこの時点で事業者と総務省との関係は密である。

 NTTにはこれにかぶさるように「日本電信電話株式会社等に関する法律」という別の法律がある。1条と2条は対象事業者の定義なので、理念(責務)は3条に掲げられている。「会社」は持株、「地域会社」は東日本・西日本である。

 「会社及び地域会社は、それぞれその事業を営むに当たっては、常に経営が適正かつ効率的に行われるように配意し、国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与するとともに、今後の社会経済の進展に果たすべき電気通信の役割の重要性にかんがみ、電気通信技術に関する研究の推進及びその成果の普及を通じて我が国の電気通信の創意ある向上発展に寄与し、もって公共の福祉の増進に資するよう努めなければならない。」

 電気通信事業法にも、NTT法にも「公共の福祉」という言葉があり、通信の公益性・社会的有益性が示されている。

 少し違う話だが、東北新社に関して外資規制が問題になった。これは基幹放送の影響力を考慮して、外国資本の持株比率を一定以内に抑えるべきとの判断である。放送法は159条で「[日本国籍を有しない人]により直接に占められる議決権の割合...がその議決権の5分の1以上を占める株式会社」としており、移動体通信では電波法5条で「法人又は団体であって、イに掲げる者により直接に占められる議決権の割合...がその議決権の5分の1以上を占めるもの」とある。

 こう見ると、華々しいICT業界も基底では、生々しい政治や行政との関わりから逃れられない。その意味で情報通信はビックテックが中心にいる世界ではなく、電気や鉄道のような公益性の高いネットワーク産業と見るべきである。

 発電を見よう。名前が似ているが、まったく別物の「電気事業法」第1条は次のように理念を定める。「この法律は、電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって、電気の使用者の利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによって、公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ることを目的とする。」

 ここでも「使用者の利益を保護」が出てきて、さらに「公共の福祉」が「公共の安全」となっているが、やはり公益性・社会的有益性が示されている。そして通信と同様に(ここでは別の省だが)第2条「小売電気事業を営もうとする者は、経済産業大臣の登録を受けなければならない」と規定される。

 ついでに「ガス事業法」第1条には「この法律は、ガス事業の運営を調整することによって、ガスの使用者の利益を保護し、及びガス事業の健全な発達を図るとともに、ガス工作物の工事、維持及び運用並びにガス用品の製造及び販売を規制することによって、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ることを目的とする」とあり、やはり第二条「ガス小売事業を営もうとする者は、経済産業大臣の登録を受けなければならない」となっている。

 最後に鉄道を見よう。鉄道事業法の第1条に「この法律は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、輸送の安全を確保し、鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする」とある。「利用者の利益を保護」「公共の福祉」という通信と同じ用語が使われている。ちなみに鉄道の管轄も別で、第3条で「鉄道事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない」と規定される。

 情報通信業界はビックテックの活躍に見られるように、きらびやかで競争性の高い産業と誤解されるが、根底では硬派な政治と結びついている。いま一度、通信と政治が切り離せないことをご確認いただきたい。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は4月15日の予定です)

【森田浩之プロフィール】

東日本国際大学客員教授。長年、哲学と政治を学んできたが、現在は人工知能の基本理念と社会的意味について研究している。NTT労働組合の機関誌『あけぼの』に「未来を語ろう――ICT/AI研究ノート」を連載中。著書に 『情報社会のコスモロジー』 『社会の形而上学』 『小さな大国イギリス』『ロールズ正義論入門』がある。NTT労働組合の学習会では、情報通信政策について解説している。