森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第268回 放送の通信への埋没

日本の現状を公平に見るならば、ウイルスへの日本人の対応は世界の手本と胸を張れる。私はこの面で日本を誇らしく思う。5月17日の時点で、世界の感染者数は

アメリカ...145万4504人

ロシア...27万2043人

イギリス...24万1455人

スペイン...23万698人

イタリア...22万4760人

で、死者数は

アメリカ...8万7991人

イギリス...3万4546人

イタリア...3万1763人

スペイン...2万7563人

フランス...2万7532人

である一方、日本の感染者は1万7022人、死者は761人である(クルーズ船含む)。これは日本人の衛生意識の高さを示していて、手洗いが習慣化していることを証明している。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

 5月の大型連休が終わり、少しずつ人びとが動き始めている。たしかにこれは3月の連休のように「緩み」につながりかねないが、みんなが賢明に行動すれば、段階的に日常に戻しても、感染拡大には至らないのではないかという楽観論もある。

 ただし、そのためには「新たな日常」に慣れなければならない。私は、自分が感染している/いないにかかわらず、外出時に必ずマスクを着用すれば、感染拡大を防止できるのではないかと感じている。

 というのも「濃厚接触者」の定義変更に見られるように、感染者がほかの人にウイルスをうつしてしまうのは、感染者が発症する2日前から始まる。さらに発症の2日前に感染者が持つウイルス量が一番多くなるとのことである。

 私は感染症の素人であり、さらに言えば、もともとから文系だから医学、そして理系的な知識については中途半端でしかないが、この数か月間に勉強した印象としては、いろいろな治療薬の研究は進んでいるが、確実な方法はウイルスが体外に出ていくまでの延命措置ではないだろうか。

 ご存じのように、ウイルスは飛沫感染か接触感染でうつされる。飛沫感染は至近距離ならば、会話でも感染してしまうから、マスクは効果的である。接触感染は(「3密」の「人との接触」ではなく)物体接触のことである。感染者がくしゃみをして、その手のままでドアノブをつかみ、あとから来た人がそのノブを握ってしまい、その手で顔を触ると、ウイルスが鼻や喉から肺に入るという流れとなる。

 すると、ここでも感染者はマスクをしていれば、くしゃみの飛沫が外に出ない。つまり、いま必要とされているマスクはウイルスを「うつさない」ためのマスクであり、「うつされない」ためのマスクではない。これを改めて確認しておかないと、マスクなしの外出が増えてしまう。

 いまマスクなしで外出している人の思いはどんなものなのか。もちろん私はこういう人をスマートフォンで撮ってSNSに上げるような「自粛ポリス」になるつもりはない(ウィキペディア「自粛警察」参照)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%B2%9B%E8%AD%A6%E5%AF%9F

 可能性として考えられるのは、まず「感染者が『うつさない』ためのマスク」という見方が共有されていないというのがあるだろう。すると「感染者から『うつされない』ためのマスク」は要らない、というのも「自分は健康だから、うつされる心配がない」ということなのだろうか。

 または調べている人にかぎって、(私のように)生半可な知識で満足している人もいるかもしれない。というのも、マスクには「感染予防効果」はあまりないという見解をウイルス拡大当初によく見かけたからである。

https://www.lireclinic.com/column/の「マスクの予防効果(コロナ、インフルエンザ)について」

 上記のサイトには「感染予防効果」は限定的と書かれているが、私はいまでもこれは正しいと思っている。とはいえ「だからマスクをしない」という結論にはならない。

 次に考えられるのは、マスクが「うつさない」ためのものという知識はあるが、「自分は感染していないから大丈夫」と想定して、マスクをしないということだろう。健康な人ほど、この考えに陥りがちであるが、私は過信せずにマスクをするようになった。

 というのも、私はむしろ3月までは「マスクしない派」であった。しかし「もし『うつさないためのマスク』という考えが世間に浸透しているならば、そして『発症2日前から、ほかの人にうつす』という見方も広まっているならば、自分がマスクをしていることで相手は安心するだろう」ということに気づいたからである。

 この「相手を安心させるためのマスク」という発想を共有するためには、どうしたらよいのだろうか。すでにウイルスの怖さは共有されているだろう。しかしそれが実感を持って、人びとの五臓六腑に沁み込んでいるかどうかは不明である。

 というのも、そういう偉そうなことを言う私も、海外のニュースを見るまでは、頭ではわかっていても、臓器のレベルでは感じていなかったからである。私は冒頭で、日本人の衛生意識は世界に誇りうると書いたが、マスコミの報道姿勢については、恥ずかしいばかりである。

 ただし、これを「恥ずかしい」と言ってしまうのも、日本のマスコミ人には失礼な話かもしれない。というのも、日本には特有のマスコミ慣習があるからで、これが今回のような危機時には機能しないということだからであり、それはむしろ「記者の安全」という面では、正しいやり方かもしれないからである。

 端的に言えば、いまの日本人は「感染者の症状」と「医療現場の状況」について、あまりにも無知である。というのも、これは善し悪しの問題ではなく、記者とカメラが病院に入って臨場感のあるレポートを伝えることができないからである。

 これにはふたつの要因が考えられる。大きいほうは、病院がいくつかの理由で受け入れたくない・受け入れられない。もうひとつのマイナーなほうは、マスコミ各社が記者を危険に晒せない。

 病院側の理由としては、取材に対応しきれないというのもあろうし、病院名を公表されたくないというのもあろう。マスコミ側の理由は、取材によって記者が感染した場合、会社が責任をとれないだけでなく、世間から非難される恐れがある。

 日本では、たまに活字や引用という形で、現場の医師の話が伝えられるが、だいたいは匿名であり、目をそむけたくなるような事実もあまり報じられない。私も大半の人たちと同じように、3月までは日本の報道だけで過ごしていたため、「医療崩壊」という言葉の意味は想像しないと理解できなかった。とはいえ、想像しようと努力をしても、材料がないため、実感はわかなかった。

 やはり「百聞は一見に如かず」である。日本で「ロックダウン」(都市封鎖)という言葉がマスコミで採り上げられるようになったのは、3月23日に東京都の小池知事が使ってからである。それから遡って、罰則つきの厳しい外出制限を実施してきた国のレポートを探すようになった。

 私もそれまでは多くの人たちと同様に、日本人による活字によって海外の情報を得ていたが、海外で制作された映像の必要性を感じ、行き着いたのがYouTubeであった。

 ニュースメディアは、カテゴリーで言えば「放送」の世界に属し、YouTubeは「通信」に入る。アメリカとイギリスの一部のニュースは早くから、地上波のニュース番組を放送後にYouTubeにUPしている。もう一度くり返そう、アメリカとイギリスのニュース番組には、放送後にYouTubeで見られるものがある。

 加えて、欧米のいくつかのテレビ局は、通常の地上波のニュースとは別に、24時間ニュースを流している。いままでもアメリカのCNNなどが一日中流しているが、いくつかの局は24時間ニュース放送を、なんとYouTubeでも同時に放送している。くり返そう、アメリカとイギリスのテレビ局には、YouTubeで24時間ニュースをライブストリーミングしているところもある。

 アメリカではABCテレビとNBCテレビが、イギリスではSky NewsがYouTubeでも放送している。URLは以下のとおりで、すべてwww.youtube.comから始まる。

ABC News Live...https://www.youtube.com/watch?v=w_Ma8oQLmSM

NBC2...https://www.youtube.com/watch?v=tPeUHECNLKs

Sky News Live...https://www.youtube.com/watch?v=9Auq9mYxFEE

 さらに驚くことに、ほかの国ではインターネット専門の24時間ニュース・チャンネルがあり、それもすべてがYouTubeで同時放送されている。フランスにはFrance 24があって、ドイツにはDW Newsがあり、そして欧州全体でEuronewsを運営している。

 France 24はフランスの公共放送で、DW News(ドイチェ・ヴェレ)はドイツの公共放送で、Euronewsはヨーロッパのいくつかの国のテレビ局が共同で設立したものである。当初はキプロス、ギリシャ、フランス、イタリア、ベルギー、ポルトガル、スペイン、モナコ、フィンランド、そして欧州外ではエジプトの8か国が出資したが、現在はチェコ、ロシア、スイス、トルコなど13の国が加わっている。URLは以下だが、同様にwww.youtube.comから始まる。

France 24...https://www.youtube.com/watch?v=BJzSJlMwQcA

DW News...https://www.youtube.com/watch?v=NvqKZHpKs-g

Euronews...https://www.youtube.com/watch?v=6xrJy-1_qS4

 これらのチャンネルを見ているうちに、Sky Newsのドキュメンタリーに出会った。これは同ローマ支局員がロックダウン中のイタリアを取材したものである。全部英語だが(近い将来、人工知能が同時通訳してくれるから、しばらくの辛抱)、画面を見ただけでショックを受けるはずである。

 いまでも記憶に残っているのは、記者が無人のローマを取材中、警察に呼び止められて外出許可証を要求されたこと、精神的に行き詰った病院の医師とのテレビ会議システムによるインタビュー後、記者が悲しみに言葉を失ったこと、記者みずから防護服を着て病院内を取材したことである。

 記者が悲しみに言葉を失ったことをあえて強調したのは、欧米ではキャスターや記者は感情を出してはならず、というよりも、どんなニュースを扱おうと感情を抑えられることがジャーナリストの条件と見られているからである。この会見での相手の医者は、終始、にこやかにするよう努めていたが、そこにこそ痛々しさが感じられていた(以下、日付はYou TubeにUPされた日)。

Sky News (2020/5/2)

https://www.youtube.com/watch?v=q9MhoVpHAeg

 ここからYouTube内でのイタリア・レポート探しが始まった。次はDW Newsの記者がヴェニスを出発点に各地を取材したものである。ここでもドイツ人記者とカメラマンは、無人の街中で警察に呼び止められていた。ただし、ここは日本と似ていて、マスク着用で病院近くまでは接近したが、病院内の取材はなかった。

DM News (2020/4/15)

https://www.youtube.com/watch?v=DQzYnxN3tE4

 圧巻がVICE Newsのイタリア・ロンバルディア州レポートである。冒頭、救急車に同乗した記者がみずから防護服に身を包み、老人ホームに向かうところから始まる。けたたましいサイレンでまず度肝を抜かれる。カメラは救急隊員の担架とともに建物に入り、老女に声をかけてから運び出すまでの詳細を記録する。

 病院に運んだあと、記者は隊員にインタビューする。その疲れ切ったとも、諦め切ったとも、なんともつかない表情がすべてを物語っている。その後は記者自身の病院内からのレポートと続く。遺品保管室や霊安室にまでカメラが入っている。そして集団埋葬から葬式など、イタリアの苦難の集約を衝撃的に報じていた。

VICE News (2020/4/15)

https://www.youtube.com/watch?v=2wKod86QYXw

 VICE Newsはニューヨークを拠点に2013年に始まったニュースやドキュメンタリーを自身のサイトとYouTubeで放送するチャンネルである。

日本のホームページはhttps://www.vice.com/jp

 ほかにイギリス・ロンドンの病院を取材したものとして

Channel 4 News (2020/4/17)

https://www.youtube.com/watch?v=rLM8oZONUrc

 アメリカ・ニューヨークの病院を取材したものとして

ABC News (2020/4/19)

Part 1...https://www.youtube.com/watch?v=0P8KyaYuaTg

Part 2...https://www.youtube.com/watch?v=F68ueldCkFY

をそれぞれ参考にしている。いずれもYouTubeである。

 情報通信政策の世界では「通信と放送の融合」が議論されている。テレビ・ラジオとインターネットとの兼ね合いに関する将来像である。しかし海外ではすでに、放送が通信を利用して生き残ろうとしている。

 もしかしたら「通信と放送の融合」を議論しているうちに、現実のほうが先に進み、放送が通信の内部にみずから入り込んで、新しい報道の形を模索しているのかもしれない。会議ばかりしている官僚と学者を、業界と世間のニーズが追い越しているということである。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は6月15日の予定です。)

【森田浩之プロフィール】

東日本国際大学客員教授。長年、哲学と政治を学んできたが、現在は人工知能の基本理念と社会的意味について研究している。NTT労働組合の機関誌『あけぼの』に「未来を語ろう――ICT/AI研究ノート」を連載中。著書に 『情報社会のコスモロジー』 『社会の形而上学』 『小さな大国イギリス』『ロールズ正義論入門』がある。NTT労働組合の学習会では、情報通信政策について解説している。