森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第200回 共謀罪を再考する

テロ等準備罪は新しい罪の創設である。従来は法的に違反でなかった行為を犯罪と規定しなおすことである。

他人の物を盗むと窃盗罪になるが、これは刑法235条「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」に違反するからである。

テロ等準備罪によって、事件が発生する前に、犯罪を目的に特定の行為をすると違法となる。窃盗罪が刑法235条で定められるように、テロ等準備罪は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」に加えられる。

6月に成立したものは、テロ等準備罪の法案ではなく「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」であった。この法律にテロ等準備罪を入れることを含め、全体が改正された。

第1条は「この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害し、及び犯罪による収益がこの種の犯罪を助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることにかんがみ、組織的に行われた殺人等の行為に対する処罰を強化し、犯罪による収益の隠匿及び収受並びにこれを用いた法人等の事業経営の支配を目的とする行為を処罰するとともに、犯罪による収益に係る没収及び追徴の特例等について定めることを目的とする」とする。

単独で凶悪犯罪をやるよりは、複数の人が話し合って計画的に行うほうが、被害が大きく損失が絶大だから、組織犯罪を特別な法律で取り締まろうという意図である。

第6条に「次の各号に掲げる罪で、これに当たる行為が、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものを犯す目的で、その予備をした者は、当該各号に定める刑に処する」とある。

テロ等準備罪は新しい記述を付けることで、罪の新設となる。国会で審議・採決された改正案には「第6条の次に次の一条を加える」という文言の後、以下のようにある。

「第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。」

これは組織犯罪の計画段階で既存の法律に反する行為をした場合、組織犯罪処罰法のテロ等準備罪が適用されると解釈できる。

テロ等準備罪の対象犯罪は277あるが、テロの実行に関する犯罪110、薬物に関する犯罪29、人身に関する搾取犯罪28、資金源犯罪101、司法妨害に関する犯罪9である。

野党が追及し、法相が答えに窮していた案件の一つがこれである。最初の三つはそれだけで重大犯罪だから準備罪の新設は必要ないし、資金源に関しては無理にテロと関係づけようとするものがある。

郵便法、競馬法、自転車競技法、小型自動車競走法、文化財保護法、モーターボート競走法、森林法、出資法、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、著作権法、廃棄物処理法、貸金業法、種の保存法、不正競争防止法、保険業法、スポーツ振興投票法、種苗法などである。

加えて政府は「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」を批准するための前提と強弁していた。条約は以下の項目から成る。

第1条「目的」(以下、番号のみ)2「用語」3「適用範囲」4「主権の保護」5「組織的な犯罪集団への参加の犯罪化」6「犯罪収益の洗浄の犯罪化」7「資金洗浄と戦うための措置」8「腐敗行為の犯罪化」9「腐敗行為に対する措置」10「法人の責任」

11「訴追、裁判および制裁」12「没収および押収」13「没収のための国際協力」14「没収した犯罪収益または財産の処分」15「裁判権」16「犯罪人引渡し」17「刑を言い渡された者の移送」18「法律上の相互援助」19「共同捜査」20「特別な捜査方法」

21「刑事手続の移管」22「犯罪記録の作成」23「司法妨害の犯罪化」24「証人の保護」25「被害者に対する援助および保護の提供」26「法執行当局との協力を促進するための措置」27「法執行のための協力」28「組織犯罪の性質に関する情報の収集、交換および分析」29「訓練および技術援助」30「その他の措置」(以下31~41は手続き関連)

第2条は「組織的な犯罪集団」を「3人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在し、かつ、金銭的利益その他の物質的利益を直接または間接に得るため1または2以上の重大な犯罪……を行うことを目的として一体として行動するものをいう」と定義している。

安倍政権は「テロの準備として資金集めをすれば犯罪になる」と答弁していた。しかし条約が対象としているのは、収益を得ることを目的とした組織犯罪である。

日本政府が取り締まりたいのは「資金→テロ」だが、条約が取り締まりたいのは「組織犯罪→収益」であり、ベクトルの向きが反対である。

同様に第5条は組織犯罪を「金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接または間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを1または2以上の者と合意すること」としている。

資金洗浄、腐敗、司法妨害について「締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる」という条文はあるが、テロ準備への対応を求める記述はない。

全体の印象として条約の目的は、A国で起きた犯罪で収益を得た組織が、マネーロンダリングのために資金をB国に移した時、B国がそれを違法とし、財産を差し押さえ、容疑者を拘束できるようにすることであり、犯人をB国で裁くのか、A国に引き渡すのかについて国家間で取り決めることである。

これほど杜撰な審議で、こんな重大な法案が通ったことは、恥辱としなければならない。「一強多弱」政治の弊害である。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は8月1日です。)

【森田浩之プロフィール】

1966年生まれ、東日本国際大学客員教授。フリーの著述家として、政治・経済について執筆・講演する一方、情報通信政策研究会の座長を務めている。NTT労働組合の政治学習会では、全般的な政治・経済に加えて、「これからの労働運動」「若者と政治」「NTTをめぐる規制と情報通信政策の動向」「地方分権時代の政策立案」など、多彩な内容の講演を行なう。著書に『小さな大国イギリス』(東洋経済新報社)、『社会の形而上学』『情報社会のコスモロジー』(共に、日本評論社)など。