森田浩之の政治コラム(最新回)

森田浩之の政治コラム

第194回 戦争をなくすために

戦争をなくすために何をすべきか。国際社会においては、領土拡張路線の隣国に対して、こちら側が軍備を増強すれば、相手は引き下がるという見方がある。

軍備拡張競争はゲーム理論の囚人のジレンマである。比喩で説明しよう。

二人が向かい合って、相手に対して手のひらをどう使うかというゲームをする。それぞれが持っている手段は二つで「平手」打ちと「握手」である。手のひらで相手をひっぱたくこともできるし、差し出された相手の手を握って友好の意思を示すこともできる。

ゲームのルールだが、それぞれが得られる点数は、こちら側の手と相手側の手との関係によって決まる。こちらが「平手」で相手の頬を叩くと相手は痛がる。その際、相手が「握手」を求めてきていたら、こちらは被害を受けない。これを3対0としよう。

次に両者ともが相手への好意から「握手」したらどうなるか。相手を痛めることも、自分が痛むこともなく、双方が同等にいい気分になるから2対2とする。

そして両者ともが「同じ叩かれるなら、相手にも平手打ちを喰らわせよう」と思えば、双方ともに「平手」となる。相手を痛がらせたが、自分も痛いから1対1となる。

最後がこちらは友好のつもりで「握手」しようとしたが、相手がこちらを「平手」で叩いた場合である。これはこちら側から見て0対3である。

ゲーム理論的には、解は三番目の1対1となる。というのも、こちらは相手の手の内を知らないままで、自分の行動を決めなければならない。友好のつもりで「握手」しようとして、相手に叩かれたら0点しか得られない。

一方、相手がどちらの手を選ぼうが、最初から「平手」にしておけば、0点になることはなく、最悪でも両方が「平手」の1点。もし相手が「握手」に出てくれれば、最高の3点を得られる。

この計算は相手も同じようにしているから、結果的に両者ともが「平手」にして、1点ずつになるというのが理論的な結論である。

これを現実の国際関係に応用すると、二つの隣国が相手を屈服させようと、軍備増強に走る。こちら側が圧倒的な軍事力を誇れれば、相手は言いなりになってくれる。これは「平手」のことである。

もし不必要な軍拡路線で相手に不信感を与えて、偶発的に軍事衝突にでもなれば悲惨なことになるから、友好の意思を示すために、国際社会に「専守防衛のみ」という立場を鮮明にして、自国の領土から1センチたりとも軍隊を出すことはないと伝えるという姿勢もあるが、これは上記の例の「握手」に相当する。

さて一方が軍備を増強して、片方が最小限しか持たなければ、これは「平手」対「握手」となるが、国際関係では、これは長期的な影響を及ぼす。

軍事大国は隣国の軍事小国に対して、恒久的に脅して、相手を言いなりにできる。小国は大国に対して、言いたいことを言えず、大国の領土拡張路線を黙認し、存亡の危機におびえる。

このシナリオを怖れる人たちが、軍備増強を主張するのであろう。ここでは先の「平手」「握手」が「軍拡」「軍縮」になる。

こちらが「軍拡」で相手が「軍縮」だと3対0、両国とも「軍縮」だと2対2、両者とも「軍拡」なら1対1で、こちらが「軍縮」で相手が「軍拡」なら0対3である。

上記の例と同じように、こちらが「軍縮」だと、相手の行動によっては2点か0点になるが、こちらが「軍拡」なら、相手の出方によっては3点か1点になる。

結局、最高点(3)が取れそうで、かつ最低点(0)を避けられるから、両国ともが「軍拡」を選ぶ。だから理論的にも、そして歴史的にも軍拡競争はなくならない。

問題は、ほぼすべての戦争が軍拡競争から始まることである。「自分が損をせず、相手が屈服してくれれば」という甘い期待から、各国は軍備増強に乗り出すが、相手の行動を読み間違えることで、最前線で小さな衝突が起こり、そこから負の連鎖によって大国間の全面戦争に入り込む。

困ったことに、理論上も、そして歴史においても国家が計算違いをしているのは、軍拡競争を囚人のジレンマと理解しているところである。

戦争は実際のところチキンゲーム、つまり度胸試しの自動車の正面衝突ゲームである。二台の車が反対方向から、相手に向って疾走する。二台はそのまま直進すれば、相手にぶつかるが、衝撃は双方の全速パワーがもたらす威力で、破壊的な帰結を引き起こす。

チキンは弱虫のことで、衝突による死を怖れる側がハンドルを切って衝突を回避する。こちらが「直進」し、相手が「回避」すれば、こちらは3点もらえるが、囚人のジレンマと異なり、最悪が「死」だから、死ななかったという意味で、相手も1点獲得する。

次に両方ともが「回避」すれば、弱虫どうしの痛み分けで2対2。

そしてここも囚人のジレンマと違うが、三番目のシナリオは、こちらが「回避」して、相手が「直進」する場合である。こちらは死ななかったから1点で、動じずに走り抜けた相手に勝利を差し出したから、相手は3点得られる。

チキンゲームにおいて最悪のシナリオが、両者が「直進」したことで正面衝突して、双方とも死ぬことである。これは0対0である。

チキンゲームの問題は、こちらが「回避」の場合の得点が2点(相手も「回避」)と1点(相手は「直進」)であるのに対して、こちらが「直進」の場合は3点(相手が「回避」)と0点(相手も「直進」)になることである。

複雑な言い方だが、期待(予測)される得点の確率が、囚人のジレンマの場合は「平手」のほうが高いのに対して、チキンゲームでは「直進」「回避」とも同じになる。

相手の行動を予想してこちらの行動を決める際の手がかりがなく、相手の心理を読み、こちらの手を決める計算が堂々巡りし、結果的に決断の際、誤作動を起こしやすい。

以上のような理論的な考察から得られる答えは一つである。戦争をなくす方法は、そもそもの最初から軍拡に走らず、外交を通じて、相手国を侵略する意思がないことを、政府と民間の交流を含めて、丁寧に、丁寧に説明していくことである。

この当たり前で、あまりに月並みだが、地道な努力をあきらめずに続ければ、戦争をなくすことはそんなにむずかしくない。

(このコラムは毎月1日と15日の月2回。次回は5月1日です。)

【森田浩之プロフィール】

1966年生まれ、東日本国際大学客員教授。フリーの著述家として、政治・経済について執筆・講演する一方、情報通信政策研究会の座長を務めている。NTT労働組合の政治学習会では、全般的な政治・経済に加えて、「これからの労働運動」「若者と政治」「NTTをめぐる規制と情報通信政策の動向」「地方分権時代の政策立案」など、多彩な内容の講演を行なう。著書に『小さな大国イギリス』(東洋経済新報社)、『社会の形而上学』『情報社会のコスモロジー』(共に、日本評論社)など。